心まで老いない

少し前の事です。
「名前を引き継ごうと思う。」と父から電話がありました。その名前とは
俳号の事。以前祖父が使っていた名前です。俳句が趣味の祖父は同人誌に
載せたり投稿したり。その俳号がポストにも明記してありました。

数年前から父も俳句を作っているようで、父曰く「日々の記録とボケ防
止」に調度良いのだとか。季語を選び、短い言葉で感動を残す。私も古本
屋で俳句の本を見つけて送ったりしていました。

先日、会いに行った時、「名前を引き継ぐ程俳句に凝っているんだね」と
父に尋ねると意外な答えが返ってきました。
数年前、病気になった父は自由に出かける事はできない状況です。行動す
る事を奪われた今、残り少ない人生の砂時計を、ただ砂が落ちていくのを
見送っているのはつらい。出来ることの中から俳句を選び日々を表現して
いきたいのだと。

病気でいろんな事を諦めざるを得なくなり、沈んでしまう事もあったけど
これで何とか保てると笑っていました。
父の本当の気持ちを知り、生きるという事を考えさせられました。体が老
いる現実の中、最後まで心を老いることなく、病むことなく生きること。
悲しいけど崇高な父の姿です。

ちなみに俳号は「白雨」といいます。明るい空から降るにわか雨という意
味です。今となっては祖父が名前を選んだ理由を聞くことはかないません
が祖父にぴったりだったと思っています。そして父らしい名前でもあると
感じています。