マハーバーラタ戦記

夏に体調を崩した折に、ガネーシャの知恵を読み返したと先月のコラムに
書かせていただきました。インドの物語に触れ、かつて手に取ったヴァガ
バッドギータを再び読みたくなりましたが、目の調子が悪く、なかなか読
めないままでいました。

ヴァガバッドギータはインドの散文詩で神の詩と訳されるそうです。イン
ドの神話とも言えるマハーバーラタの中で描かれています。戦う王子のア
ルジュナと神の化身であるクリシュナとのQ&A、対話で進んでいきます。
数年前インドに行った時、インドの神様などインド関係の本に興味を持っ
た時に購入しました。ですがマハーバーラタはお話が長く、また登場人物
が大勢、しかも化身だったりして複雑という印象がありました。当時も今
も読み切れないでいました。かつてインドでテレビドラマとして放送され
たそうですが、94話もあったそうです。超大作インド版大河ドラマといっ
たところでしょうか。

そんな時、歌舞伎でマハーバーラタを演じられるという事を聞き、インド
の神様やヴァガバッドギータはどう表現されるのか気になって見に行って
きました。

物語の最初は勢ぞろいした神様達の場面から始まります。衣装はピカピカ
で豪華絢爛、インドらしさと歌舞伎が融合しており違和感なく引き込まれ
ていきました。象が出てきたり、戦車での戦いのシーンがあったり。舞台
いっぱいに使った演出は迫力がありましたし、ガムランの音楽が物語を盛
り上げていました。

主人公はカルナ、最後にアルジュナ(歌舞伎ではアルジュラ)との戦い敗
れるカルナの目線で描かれていました。ちなみにカルナは菊之助さんが演
じておられました。

カルナは悲劇のヒーロー、数々の災難に見舞われてしまうところは歌舞
伎っぽいのかもしれません。そして戦う事をためらうアルジュナにクリ
シュナが現れ導く、ヴァガバッドギータの場面。アルジュナは尾上松也さ
ん、クリシュナは歌舞伎の重鎮、菊五郎さんでした。その場面は妙に歌舞
伎っぽく不思議な感じがしました。期待が大きかったのかもしれません。
でも全体的に素晴らしい歌舞伎でした。難解だと思っていたマハーバーラ
タがわかりやすくなっていましたし、歌舞伎になったインドのお話を観客
の皆さんが喜んでいらっしゃる事も新鮮な驚きでした。そしてインドの
物語に触れたという余韻がずっと残っています。

ただ私個人としてはもう一度、ヴァガバッドギータを読み直してみたいと
思っています。
クリシュナは言います。「執着を捨て、結果を求めず行為をせよ。」と。
その言葉をもう一度感じてみたいと思っています。